月刊ギャラリー 2018年5月号 Art Report 「大田区から世界へ発信」
”From Ota City to the World" Art Magazine "Monthly Gallery“ May 2018 issue
大田区から世界へ発信
-Cube Gallery/東京-
画家 KATO
東急池上線蓮沼駅から徒歩5分、閑静な住宅街にCube Galleryはある。オーナー大塚邦子氏が自宅に併設した15㎡ほどの小さなギャラリーである。
大塚氏自身も絵を描き、以前は二科展など団体展で活躍していた。その後、技法やサイズの制約が多い団体展に疑問を持ち、コラージュを主とした自由な作品をグループ展や個展で発表するようになった。そして、制作するだけでなく作品を通じて社会に関わりたいという思いから、建築家と相談しながらギャラリーの設計を始め、2015年9月に地元蓮沼にCube Galleryを開廊するに至った。
ギャラリーの名前「キューブ(立方体)」は、ギャラリーの箱のような空間のイメージだけではなく、様々な視点から物を見るというピカソのキュービズムの考え方を表しているという。打ち放しコンクリート風の外壁、壁面とドアにリズミカルに並んだ正方形の小窓、特注で誂えられた木製のスツール・・、ギャラリーのデザインには大塚氏の考えるCube Galleryのコンセプトが見事に反映している。
縁があって、私がこのギャラリーの展示企画を任せられることになった。長年アジアのアーチストたちのグローバルな活躍を目の当たりにしてきた私は、アートとは社会啓発でなければならないと考えている。私のアジアでのネットワークを具現化し、アジアの現代アートを紹介したいというプランをオーナーに伝えたところ、快諾を得ることができた。
近頃はアジアのアートフェアに積極的に進出を図るギャラリーやアーチストが増えているが、まだまだ日本人のアジアのアートに関する関心は低いように思える。日本の美術界が欧米ばかりを志向するうちに、世界の美術の流れはいつしかアジアへと変化した。Cube Galleryの願いは、この小さなギャラリーがアジアと日本のアートの交流の場になることである。
町工場の街大田区は世界有数の産業集積地である。世界に誇る技術を持つ町工場が多く存在する。そして、世界への出入り口である羽田空港もある。たとえ個人の力であっても「ものづくり」の心意気で始めようとオーナーと決めた。
実際のところ、ギャラリーの実践活動は多くの同志や協力者によって支えられてきた。公立美術館でも招請が難しい「ミャンマー現代絵画展」(2017.3.15-4.15)の開催は、長年に亘ってミャンマーとの美術交流を続けてきたASIAN ARTISTS NETWORK(山田陽子会長)の協力があって初めて実現した。タイのワッサン・シティキット、ベトナムのレ・タン・ツーなどアジア有数のアーチストによる「アジア現代絵画3人展」(2017.9.2-11.11)は、アジア現代絵画コレクターである大串征雄氏の力添えがなければ成し得なかった。タイの若手アーチスト ジェットニパット・タットパイブーンを招いての個展「タイの光と風」(2017.11.23-12.23)では、地元住民の暖かい歓迎で素晴らしい文化交流が果たせた。着実な活動により海外でも注目されるようになり、最近では来日したアーチストやギャラリストが立ち寄ってくれるようになった。
現在、東京23区人口ランキング第3位を誇る大田区だが、区立美術館がない。アートセンターとしての美術館の建設が望まれるが、器だけできても意味はない。必要なのはシステムである。町工場のように小さなアートスポットが連携することで、大田区ならではのアートムーブメントを世界へ発信できたら良いなと夢を描いている。